ペルシア湾通信
2004年5月7日
1分の1の楽しみ
今日は金曜でこちらは休みです。
NHK衛星を観てたら、山梨県長坂町の助役が収賄で逮捕された、なんてニュースをやってて、
見覚えのある庁舎や伊藤物産の辺りが映りました。世界も狭くなったもんです。
こっちでは朝の7時半に昼12時のNHKニュースがそのまま観られます。
そのあとどーゆー訳か有料で「澪つくし」やってるんです。
時々銚子電鉄が出てくるんで観てますけど。
沢口靖子も最近のキンチョールのCMでイメージがヘンになっちゃいましたね。
娯楽が全く無い砂漠の真ん中ですが、ここでは私のような乗り物好きには模型を
作る以外に幾つか「本業」を楽しむ方法があるんですよ。
ここは高温多湿の、夏は地獄のような所で、特に夕方はペルシャ湾からの
塩分タップリの湿気を限界一杯に含んだ高温の空気が流れてくるので、
日陰に駐車していて直射日光を受けずに少し冷えた自動車の車体には、
まるでバケツで水をぶっかけたように結露するんです。
これが「塩水」ですから堪りません。しかも毎日です。
鉄製品はあっという間にボソボソに腐ってしまいます。
バリバリのトヨタの新車でも3ヶ月もすると錆が浮いてきます。
そのためにウチの工場では、大体1ヶ月に1台の割合で
社有の自動車、建機類を「更新改造」します。
とにかく、放っておくとミキサー車などは5年で穴だらけになっちゃうんです。
車体だけではなく、特に電気部品はすぐに駄目になります。
ウチでこれを直すのが16人のアフガニスタンからの難民です。
彼らはイラン人より遥かに真面目で良く働きます。
勤勉な彼らを見ていると、ゴタゴタが収まり、教育レベルが上がればアフガニスタンが
日本のような急成長を遂げる下地は充分にあると思えます。
彼らは錆でボソボソになった車体を全く同じように造り替えて新車にしてしまいます。
つまり、メーカーの工場で大型プレス機械で造られるフェンダーなどの車体部品
を全くの手作りで一枚の鉄板からハンマーで叩き出して作っちゃう、て事です。
世界一人件費の高い日本ではもう忘れられてしまいましたが、
信じ難い事に、かつて東京などの空襲で破壊された路上の自動車の9割以上は
その後新車の状態に復旧したと言う事実があるんです。
日本は元々「手仕事の国」だったんですね。
それが今の日本国内の自動車修理工場は「部品の交換屋」です。
彼らアフガン人を得たお陰で正に「佐藤文俊の本領発揮!」って感じです。
この作業、計画するのも作業の過程を見るのも、実に楽しいんですよ。
まるで1分の1の模型を作ってるノリです。
今進行中の写真を添付します。
写真の上から1と2は1991年のウチの創業時に大阪で買った日野製シャーシー
に載ったIHI製のコンクリートポンプ車でしたが、おととしのシェルの現場でポンプ
本体のピストン部分が寿命の15000時間のほぼ倍使ったところで駄目になり、
元々補給部品の入手に難があったのでポンプ本体はそのまま廃棄しました。
しかし、下のシャーシー部分の程度が良いので、これを使って水タンクローリーを造る事にし、
同時にハンドルも右から左へ移す事にしました。
この機械的な改造も、現在ある部品を無駄なく使って安全性と耐久性を持った設計を
自分で考えるんですが、これも実に楽しいです。
今、キャビン部分の板金作業中ですが、面積にして3分の1は造り替えました。
3は板金の出来上がった日産ディーゼルのユニック付き4トンのキャビンです。
この車体はオリジナルの残っている部分は殆どありません。
今、ガラス待ちです。これも左ハンドルに改造しました。
錆が浮いているように見えるのは先週の砂嵐でたまった土埃です。
4は寄せ集めで造ったミキサー車です。キャビンはいすゞですが、
これは事故で大破した2台のふそうといすゞを組み合わせてでっち上げた車で、
クーラーもバッチリ効きます。これも左ハンドルに直しました。
後ろのドラムは日本から送った新明和の中古で、
未だに「アサノセメント」って入っています。
これも近々黄色に塗ってしまうのでそうなれば新車と見まごうまでになります。
5は今砂漠の真ん中に建設中の水道タンクの現場で活躍する「一見いすゞ」のミキサーですが、
これは4のいすゞの片割れのふそうと、やはり一回転して大破した
いすゞのトレーラーヘッドの部品とを組み合わせてでっちあげたものです。
キャビンはドバイで見つけたもので、これの程度が良いのと全塗装のお陰でまるで新車のように見えます。
実はこのキャビンに換える前は事故復旧の跡も生々しいキャビンが載ってたんですが、
そのフロントガラスが可笑しくて、オリジナルが手に入らなかったので真ん中にピラーのある、
湘南電車のクハ86みたいなHゴム支持のものをデザインして作らせたんですよ。
模型を作った経験のある方ならばこーゆー作業って、何だかジャンク箱の中の部品を
組み合わせて自由形電車を作ろうとしたら、意外にそれらしいスケールモデルが
出来ちゃった、みたいなのと共通の楽しみがあるのがお分りでしょう。
これが「1分の1の感覚」って事です。
酒も女も駄目の娯楽が無い所って言ったってオマエ、密輸酒もあるし、あんな彼女
もいるじゃないか!みたいな返信メールが多いんですが、彼女が居るのはここから
1400キロ離れたテヘランです。ここはド田舎で狭い社会ですからすぐに噂になり、
足を引っ張られる恐れがあるので連れて来れません。それこそ良いカモです。
このケースでトラブった場合、賄賂だ何だで300万円コースですね。
だからこちらが1ヶ月に1週間の割合でテヘランに通っています。
こちらでは大人しく真面目に仕事してます。
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